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後遺症による逸失利益 - 減収がなくても逸失利益を認めた事例

大企業や公務員の場合、後遺障害が残っても職場復帰すれば減収なく勤務を続けられることがあります。収入の減少がなければ逸失利益は認められないのが原則ですが、

 

1) 本人が特別の努力をしており、このような努力がなければ収入が減少したと考えられる

2) 将来的に減収や昇給昇格制限が予想される

このような場合、一定限度で逸失利益が認められます。

算出方法はこちら

例えば(1)

交通事故で怪我をして後遺症が残ったショップ店員の男性(23歳)の場合…

給料の維持・増加は本人の努力と経営者の温情によるところが大きいことから、44年間92%の労働能力喪失が認められました。

 

例えば(2)

交通事故でケガをして後遺症が残った男性公務員(45歳)の場合…

事故後、職場復帰し収入は減らなかったが、痛みや通院のために勤務時間も短く欠勤も多いため、この先公務員を免職されるおそれもあるとして、22年間60%の労働能力喪失が認められました。

事故時に就労していた場合

公務員

復職し収入減少の少ない地方公務員男性(固定時29歳)の1級3号につき、将来の昇進、昇給、転職等につき不利益を受ける可能性があることを理由として、38年間70%の労働能力喪失を認めた(札幌地判平7.10.20)

消防士男性(固定時33歳)の右上下肢麻痺、知能低下、健忘、情緒不安定、感情失禁(7級)につき、事故後配置変更を受けて復職しているが、特殊勤務手当てはなくなり昇給のペースも遅くなっており、管理職への登用も困難で、勤務成績がよくないと免職事由となることもありえるとして、61歳の平均を基礎に56%の労働能力喪失を認めた(名古屋地判平13.5.25)

公務員男性(固定時45歳)の右大腿部切断(6級)につき、事故後減収はないが、痛みや通院のために勤務時間も短く欠勤も多いため、今後分限免職の処分を受けるおそれもあるとして、22年間60%の労働能力喪失を認めた(東京地判平6.4.22)

公務員以外の給与所得者

新聞記者の男性(固定時27歳)の脊髄損傷による完全対麻痺、胸部以下の自動運動不可、排泄障害等(1級3号)につき、復職し内勤に配属されているが、勤務継続は周囲の恩恵的配慮と本人の多大な努力によるとして、事故前収入、勤務先の給与制度や勤務先作成の年収資産等から、定年60歳、までは賃金センサス男性大卒全年齢平均の1.5倍、その後67歳までは同平均を基礎に、90%の労働能力喪失を認めた(東京地判平17.10.27)

看護師女性(固定時51歳)の右足関節機能障害(10級11号)につき、減収を生じていないが、労働能力の低下から勤務を継続できないおそれがある等として、16年間20%の労働能力喪失を認めた(大阪地判平11.12.2)

会社員男性(固定時40歳)の右足関節可動域制限(12級7号)、右足母趾可動域制限(12級11号、右下肢で併合11級)、腸骨採取による骨盤骨変形(12級5号)、右下肢の外貌醜状(14級5号、全体で併合10級)につき、事故後の減収はないが、これは朝早く出勤するなど特段の努力によるものであり、入院のため昇格試験を受験できず実質的には減収ともいえるとして、27年間20%の労働能力喪失を認めた(東京地判平15.3.24)

マンション管理人の男性(固定時75歳)の左眼球破裂による失明(8級)につき、給与の減収がないのは本人の多大な努力によるとし、事故前年収318万円余を基礎に、5年間45%の労働能力喪失を認めた(横浜地判平18.10.26)

事業所得者、会社役員等

会社役員兼主婦(固定時59歳)の左肩関節機能障害(10級10号)につき、症状固定後も役員報酬年間300万円を得ており必ずしも減収を生じていないが、これは家族(役員)の努力によるもので、家事労働に支障があることは容易に推認できるとして、8年間25%の労働能力喪失を認めた(京都地判平12.12.5)

新聞配達店経営者男性(固定時37歳)の右足関節機能障害(10級11号)につき、会社組織ではあるが実態は個人事業と変わらず、新聞配達という肉体労働を伴うものであることを考慮し、現在の報酬は事故前の程度に回復しているが収入低下は十分に考えられるとして30年間27%の労働能力喪失を認めた(大阪地判平17.10.18)

空調設備会社、代表取締役の男性(固定時45歳)の脊柱変形(11級7号)につき、妻及び母が取締役となっているが、他には従業員がおらず、主な仕事は本人が行っており、事故後現実の収入の減少はなく、むしろ比較的規模の大きい工事の発注が増えて売上が上がったため役員報酬が増額されたが、脊柱変形による背部疼痛や左上肢のしびれにより長時間上を見る姿勢をとること、脚立やはしごの上り下り、前屈みの姿勢、ハンマーを使う作業等が困難なことから、今後も安定した業績を得られることが確実とはいいがたいとして、22年間20%の労働能力喪失を認めた(名古屋地判平19.10.26)

未就労者(事故後に就職したものも含む

女子中学生(固定時19歳)の頭部外傷後の頭痛等(12級12号)、左上腕瘢痕(14級4号)、嗅覚脱失(12級相当、併合11級)につき、短大卒業後、現在は幼稚園教諭として勤務しているが、欠勤なく勤務しているのは本人の並々ならぬ努力によるとして、賃金センサス女性高専短大卒平均を基礎に、就職した20歳から47年間25%の労働能力喪失を認めた(名古屋地判平18.3.17)

高卒中退男子(固定時25歳)の脊柱奇形(6級5号)、右腕関節障害(9級)等(併合5級)につき、事故後に復学し公務員となったが、パソコン入力や荷物の運搬が左手でしかできない、自動車の運転ができない等の不都合・不便を特段の努力で補っており、将来にわたり公務員として勤務できるか保証の限りではないとして、賃金センサス男性学歴計全年齢平均を基礎に、42年間75%の労働能力喪失を認めた(大阪地判平14.9.27)

女子大学生(固定時22歳)の左股関節の人工骨頭置換等(8級)につき、大学卒業後就職しているが、相当の努力をして収入を確保していること、職務が制限されること、再手術のために長期間の休業が必要なことからすれば、昇給等の不利益や勤務継続の不確定さ、再就職に困難をきたすおそれがあるとして、賃金センサス大卒全年齢平均を基礎に、45年間45%の労働能力喪失を認めた(大阪地判平14.3.27)

男子大学生(固定時20歳)の単腎による腎臓機能の低下、手指の疼痛等(8級)について、当面目立った生活上の支障は顕著化していない状態にあるとしても、労働能力への相当程度の制約は容易に推認できるとして、卒業予定時23歳から44年間25%の労働能力喪失を認めた(岡山地判平9.5.29)

 

 

 

 

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