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後遺症による逸失利益 - 基礎年収額

後遺症による逸失利益とは、交通事故でケガをしてしまった被害者に後遺障害が残り、働く能力を失うか、低下してしまった場合に、「もし、交通事故に遭わなければこれから先に当然に得られたであろう収入」のことです。後遺症によって収入減となった金額を、本来働くことが可能だった期間分、請求できます。

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有職者の逸失利益

給与所得者

・サラリーマンの逸失利益は原則として、事故前の収入を基礎として計算します。
・現実の収入が賃金センサス平均額以下の場合、平均賃金が得られる可能性があれば、賃金センサス
平均額を基礎として計算することが認められます。
・事故時におおむね30歳未満の若い人の場合には、将来、年収が増えていくことを考慮しないで低収入の
若いときの年収で計算するのは不当として、全年齢の賃金センサスの平均賃金を用います。

固定時36歳の会社員男性(四肢麻痺、膀胱直腸障害、知的レベル3歳程度等、1級3号)につき、事故年度の収入は転職前の会社で179万円余、転職後の会社で257万円余の合計437万円であったが、事故が転職間もない時期であったことから、賃金センサス男性学歴計全年齢平均555万4600円を基礎とした(大阪地判平16.9.10)

銀行員の男性(固定時34歳)の外傷性てんかん、運動機能障害、高次脳機能障害等(1級3号)につき、同期入社社員の上昇率(5%)を参考に症状固定時の推定年収額を740万円余と認定し、これを基礎として60歳定年時までの逸失利益を算定した(東京地判平16.12.21)

ラーメン店住み込み店員の男性(固定時49歳)の左足関節の機能障害(10級11号)につき、給与収入は月10万円程度であるが、住居の一部を廉価で借り受け食事などの提供を受けていること等を考慮し、賃金センサス男性中卒年齢別平均の60%である308万280円を基礎とした(東京地判平17.10.17)

副住職の男性(固定時28歳)の後遺障害(1級、症状固定後79日後に死亡)につき、実収入は350万円であったが、被害者の年齢、学歴(大学工学部博士前期課程修了)、将来の予定(弟が大学卒業後寺を継いで、本人は理工学系の仕事あるいは研究に従事)から、賃金センサス男性大卒全年齢平均671万2600円を基礎とした(東京地判平15.10.27)

運転手男性(事故時41歳)の高次脳機能障害、右下肢短縮障害等(併合2級)につき、本件事故前の休業損害証明書上の収入をもとに年収に換算すると約383万円であるが、運送会社に就職したばかりであり、今後収入の増加が見込まれる長距離運送に従事することが期待できたこと、労働能力喪失期間の長さ等を考慮し、賃金センサス男女計学歴計全年齢平均488万1100円を基礎とした(東京地判平20.1.24)

事業所得者

・自営業者、自由業者、農林水産業などについては、通常は税務申告書類を参考にしますが、その申告額と
実収入額が異なる場合には、立証することができれば実収入額を基礎とすることができます。
・所得が資本利得や家族の労働などのうえで形成されている場合には、所得に対する本人の貢献した割合に
よって算定します。
・現実収入が平均賃金以下の場合、平均賃金が得られる可能性があれば、男女別の賃金センサスを基準
にすることができます。

事故後建築士事務所を独立開業した1級建築士の女性(固定時31歳)の左膝機能障害(10級)につき、資格が男女平等であり、性別の差が賃金センサス上の賃金のように顕著な差異を生ずるものではないとして、賃金センサス男性大卒年齢別平均を基礎に、36年間20%を認めた(名古屋地判昭63.2.26)

日給制で雇用されている塗装工の男性(固定時63歳)の右肩関節の可動域制限(10級10号)につき、個人事業主としての申告所得額は136万円余であったが、実際の経費は通信費および消耗品費程度であるとして、事故前年の年収から5%の経費を控除した573万円余を基礎に、72歳まで認めた(大阪地判平15.12.24)

米穀や灯油の卸・販売、設置配管工事業を営む男性(固定時56歳)の右第3,4趾欠損(13級)につき、確定申告書上は所得がマイナスで実際の所得も明らかでないが、現実に労働能力の一部を喪失し、これが事故後の事業の縮小と無関係とまではいえないとし、家族の寄与等を考慮して、平成14年度の各種商品小売業者全労働者平均459万1200円の7割を基礎とした(大阪地判平18.6.14)

従業員10数名の建設自営業男性(固定時53歳・腰部打撲後の腰痛14級9号)につき、確定申告書に記載された所得金額161万円余は収入金額5160万円余に比して低額に過ぎ、このような金額では到底現実の生活水準を維持できないとして、賃金センサス男性学歴計50歳から54歳平均687万5000円を基礎とした(大阪地判平20.3.11)

会社役員

会社役員の報酬については、労務提供の対価の部分は認められますが、利益配当の実質を持つ部分は逸失利益を計算するための基礎となる収入として認められません。もっとも労働対価部分とそうでない部分を区別するのは容易ではありません。会社の規模、業績、事業内容、従業員数、役員就任の経緯、その役員の具体的活動等を総合評価して判断するほかありません。

工務店の代表取締役男性(固定時52歳)の右膝痛、右膝屈曲困難及び跛行(10級11号)につき、従業員はパートタイムの事務員1人だけで、営業より大工仕事や現場監督などの仕事が主なものであり、被害者がこれらの仕事をすることができなくなったことによって工務店の外注費が増大したことから、事故前の役員報酬1080万円全額を基礎とした(東京地八王子支判平16.3.25)

土木工事の施工管理会社役員男性(固定時39才)の左膝動揺関節(8級7号)につき、会社は被害者とその妻のみで他に従業員はおらず、実質的に被害者が全ての業務を行っていたこと、被害者自ら施工管理業務を遂行し、外注している技術者にも助言・指導を行っていたこと等から、月額100万円の役員報酬全額を労務提供部分とした(大阪地判平18.7.10)

ITコンサルタント会社代表の男性(固定時42歳)の左足関節拘縮に伴う左足関節の機能障害及び左足外傷性壊疽に伴う左足指の欠損障害(6級)につき、高度の専門性、経験、知識等を要求されるITコンサルタントとしての労務を提供していたところ、事故後は走行困難により顧客企業に出向いてのシステムの導入、サポート等の機動的な業務遂行や機敏な対応が不可能となったためコンサルタント業務を行えなくなった結果、会社の売上が相当減少しているとして、事故前の年収3720万円の80%(2976万円)を労務対価部分と認め、25年間67%の労働能力喪失を認めた(横浜地判平20.8.28)

家事従事者

専業主婦のような家事従事者の逸失利益は、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎として算出します。主婦が仕事を持っている場合、実収入が賃金センサスの平均賃金以上のときは実収入から、平均賃金より下回るときは平均賃金により算定します。家事労働分の加算は認めないのが一般的です。

パート勤務の主婦(固定時37歳)につき、賃金センサス女性学歴計全年齢平均341万7900円を基礎とせず、パート収入を考慮して、同賃金センサス学歴計35歳から39歳平均389万9100円を基礎とした(神戸地判平12.9.26)

妻が実家の事業を継いだため職につかず家事全般に従事していた被害者男性(固定時50歳)につき、賃金センサス女性学歴計全年齢平均352万2400円を基礎とした(東京地判平16.9.1)

ピアノ講師兼主婦(年齢不明)の右肩から上肢の疼痛としびれ等(併合12級)につき、家事に従事するほか、週3日1回あたり半日(1.5日)、ピアノ講師をして1ヶ月10万円の給与を得ていたことから、家事労働については賃金センサス女性45歳から49歳平均386万1000円を基礎として5.5日分これに給与分を加算した年収423万円余を基礎とした(名古屋地判平18.12.15)

事故時62歳の主婦の顔面醜状、左手関節痛、腰痛等(併合11級)につき、賃金センサス女性学歴計全年齢平均を基礎に、13年間20%の労働能力喪失を認めた(東京地判平20.11.19)

無職者の逸失利益

学生・生徒・幼児等

学生・生徒・幼児等の逸失利益の算出には、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を基礎とします。 女子年少者の逸失利益については、女性労働者の全年齢平均賃金ではなく、男女を含む全労働者の全年齢平均賃金で算定するのが一般的です。 なお、大学生になっていない人についても、大卒の賃金センサスが基礎収入と認められるケースがあります。

男子中学生(固定時15歳)の右小脳症状(14級)につき、高等学校に進学し、大学進学を希望していることから、賃金センサス大卒全年齢平均612万円1200円を基礎とした(岡山地判平5.2.25)

女子中学生(固定時15歳)の1級3号につき、症状固定時の賃金センサス労働者全年齢平均502万9500円を基礎とした(札幌地判平16.4.22)

大学院薬学系博士課程在学中の被害者男性(27歳)の高次脳機能障害等(1級3号)につき、製薬会社から入社までの奨学金を受け、学業優秀で研究室から助成金も出ることになっていたこと等から、入社が確実であり将来少なくとも次長になる蓋然性は高いとして、定年の60歳までは同社における年収の近似値である賃金センサス男性大卒全年齢平均の1.4倍にあたる944万2580円、以降67歳までは賃金センサス大卒60歳から64歳平均を基礎とした(東京地判平16.6.29)

高齢者

高齢者であっても、仕事をする可能性が認められれば賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別、年齢別平均の賃金額を基礎とします。

85歳の女性が、後遺障害(1級3号)を残して死亡した事案で、徘徊傾向を伴う老年期性痴呆の既存障害を9級10号としたうえで、労働能力喪失率は1級と9級との差を65%とし、賃金センサス女性学歴65歳以上の80%である235万800円を基礎とした(京都地判平14.6.6)

長男が経営する医院で日常清掃業務に従事していた被害者男性(固定時80歳)の1級1号につき、身分関係等を考慮し、月額20万円の給与50%を超える部分は贈与であったとして120万円を基礎に4年間認めた(名古屋地判平17.8.26)

失業者の逸失利益

事故当時は無職であっても、労働能力と労働意欲があり、次に仕事につく可能性があれば逸失利益を請求することが認められます。再就職によって得られるであろう収入を基礎とします。その場合、特段の事情のない限り失業前の収入を参考とします。ただし、失業以前の収入が平均賃金以下の場合には、平均賃金が得られる可能性があれば、男女別の賃金センサスをもとに算出します。

生活保護受給者の女性(固定時50歳)につき、事故当時兄弟と相談し商売を始めることを考えており、就労意欲と能力を有していたとして、事故時の満18歳女性の平均給与額を基礎とした(神戸地判平6.11.24)

フリーター男性(固定時29歳)の左大腿骨転子下骨折に伴う左下肢の鈍痛(14級10号)につき、事故間近の就労実態を認め難いことから休業損害は否定したが、症状固定後就労の意思があると認められることなどから、賃金センサス男性学歴計25歳から29歳平均の8割323万7600円を基礎として逸失利益を認めた(東京地判平17.1.25)

無職の男性(固定時28歳)の高次脳機能障害等(3級)につき、事故当時は再就職先も決まっていなかったが、比較的若年で、介護士になる希望を持って専門学校への進学が決まっていたこと、事故前に正社員として勤務していた勤務先を退職後も複数のアルバイトに従事し月額10万円程度の収入を得ていたことから、労働能力及び労働意欲があり、専門学校卒業後に就労先を得る蓋然性が高いとして、賃金センサス学歴計全年齢平均555万4600円を基礎とした(福岡地判平18.9.28)

 

 

 

 

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